【感想】朗読劇「孤島の鬼」2023/1/25 19:00公演

江戸川乱歩名作朗読劇「孤島の鬼」

https://kotooni.rodokugeki.jp/

原作:江戸川乱歩

構成・演出:深作健太

紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA

2023/1/25 19:00

蓑浦金之助:吉野裕行

諸戸道雄:中島ヨシキ

明智小五郎・深山木幸吉 他:増元拓也

木崎初代・樋口秀代・小林芳雄 他:吉武千颯

 

平日夜、しかも大寒波で日本海側や関西は電車が運休になったりしていたのでガラガラだったらどうしよう…と思いながら行ったら最後列までほぼ埋まってて驚いた。当日券も出てたけど本当に少数だったのかもしれない。

 

舞台美術、背景に造花の巨大なオブジェが吊られているのみ。台本を見ると「ロールシャッハテストのような」との記載があって納得。センスよく、あれだけでかなり豪奢な感じがしてよかった。

 

後ろが高くなっていて、椅子が2脚。セリフのないキャストが入れ代わり立ち代わりここに座るスタイルだった。

諸戸は椅子に座ってるシーンでスポットが当たることが何度があった…けど、蓑浦がマイクに入っていると前方上手席からでは完全に被ってしまって見えず…。そこだけちょっと残念。

 

蓑浦@吉野さん。はじめのセリフの溜め方とか、少しリズムを崩すような抑揚の付け方で一瞬で世界に引き込まれてしまった。長台詞でもそういうリズムの崩し方が「読んでいる」ではなく「喋っている」に感じられて本当に上手い…。

今回の脚本は、原作の蓑浦の無自覚な魔性っぽさがかなり薄まっていた。深山木にも気に入られているようなところもなくなっていたし、なにより、諸戸とのシーンがかなりなくなっていたので…。それもあって、「諸戸に迫られて困惑している、嫌がっている」色が強かった印象。お芝居も諸戸を「怖い」と思っていそうな感じが強くて、吉野さんが演ると本当に等身大の男性がただただ本人にとっては普通の感覚として同性愛者を「怖い、嫌だ」と思っているのがまざまざと伝わってきて残酷で良かった。

 

諸戸@ヨシキさん。少し低めの声。序盤、少し困ったような、控えめな印象を受ける美青年だった。脚本上、本来諸戸が謎解きを行う、諸戸の聡明さや強さが分かるシーンがなくなっていたのは少し残念だったけど、そうなると、今回受けた印象どおりの「控えめな」男になるなと思ったので、ヨシキさんの解釈力すごいな…。

そこから、蓑浦に激情を向けるところの苦しそうな感じが良かった。諸戸は蓑浦が自分の気持ちを受け入れてくれないことも苦しいし、そもそも、そんな気持ちを抱いてしまう自分そのものに対しても嫌悪感がある。

脚本でうまいなぁと思ったのは、父親の「かたわの醜さゆえに愛を受け入れてもらえない」シーンと、諸戸の「同性愛者の醜さゆえに愛を受け入れてもらえない」シーンの両方をヨシキさんにやらせたところ。「孤島の鬼」ってまっすぐ読めば鬼は丈五郎のことだけど、洞窟のシーンはまさしく諸戸道雄が孤島で鬼になってしまう部分なので…。それが分かりやすい構図に再構築されてるのは上手いなと思った。

 

そういえばこの「孤島の鬼」は配信がなかったけど、やっぱりこういう今は使われない差別用語や「同性愛者を醜い、気持ち悪いと思ってしまう」というのが普通であり許されていた当時の感覚を元にした作品をそのまま放送に乗せるのってやっぱり難しいんだろうか。

 

増元さん@深山木とか明智とか。声がいい!深くて優しい、安心する声。もっとセリフがある役で見てみたいなぁ…。

 

吉武さん@初代とか。声も顔もかわいい…。こちらももっとセリフがある役で見てみたいなぁという感想。個人的には春代が丈五郎を拒絶するシーンの嫌悪感が乗った声音が良かった。

 

脚本・演出、戦争と時事ネタを入れたがるタイプの人と事前に知っていたので、あー…と思う部分はあったものの、それ以外はとても良かった。

そもそも、長編で場面もいろいろ変わる原作を2時間にまとめるのはかなり無理がある話で、その中でもどこを残すかの取捨選択の判断は良かったと思う。

が、ラスト…。洞窟のシーン、諸戸が闇の中で蓑浦に迫った後のくだり、ここを原作から改変して小林少年と明智を投入して爆速解決させる構成だったのは…加えて突然の爆発オチ…。B級映画すぎていっそ笑えてしまった、どうしてこんなことに…。

と思った答えはパンフにあって、カルト映画「恐怖奇形人間」をオマージュしたと…。なるほどな〜と思う気持ち2割、どうして…と思う気持ち8割。

好みが分かれる部分だろうけど、私はもっと原作のじっとりと湿っぽい感じを大切にしてほしかったな…と原作が好きなので思った。それを演りきれる役者陣とも思ったし。そこだけは残念。

 

ヨシキさんのお芝居の話。

この前、自分の芝居を「上手にできるという自負はある」としつつも、これからはもっと感情的にというか、とにかくもっと芝居がうまくなりたいという話をしていた。

昨日の朗読劇を見ていても、本当に上手いなと思う。セリフに読んでいる感がないのはもちろんのこと(そもそも読んでいる感がないという時点ですごい)、「来てほしいタイミングで、来てほしい感じで来てくれる」お芝居で、うまいなぁと思う。

けど、多分この「来てほしい」という受け手の期待を読んでそれに確実に当て込みにいけるというのを今の自身の「上手さ」と定義しているのかも、と思った。

吉野さんのお芝居はいい意味でリズムを崩されるというか、思っていたのと違うタイミングで思っていたのと違う感じで来る。しかも、それが良くて、ドキッとさせられる。感情が揺さぶられて、印象に残るのってこういうときだ。

ヨシキさんの言う、これから更に求める「上手さ」の定義はこういうことなのかもと思った。

正直、求められるものを察して当て込みに行くのを10年目くらいの声優ができているというだけでもかなりすごいことだと思う。同じくらいのキャリアの人に混じっての芝居の時に特にそう思う。

でも、そこで満足することなく更に進化したいと思っているのが素晴らしいし、応援する楽しみがより増したなと思う。

 

今回の座組で朗読劇やってくれたの本当に良かったな…。これからもベテラン勢と中堅若手勢の組み合わせの朗読劇がもっと観たい。